引越しの前日そして当日

引越しの前日になった。確認事項はきちんと指差し確認をした。今日までそして明日すぐに使う必要なものは簡単な旅行鞄につめて、まるで一泊温泉へ行くような荷物だけを残してあとはすべて箱に入れた。明日頼んだ業者さんに運び出してもらうだけだ。今日改めてやる事は、これらの荷物をどこにどんな風に運び入れてもらうかってことだけ。明日の僕は指揮官だ。下準備と想定は完璧ですな、指揮官殿。

引越し 当日。外でトラックが停まる音がしたなと思ったら玄関のチャイムが鳴った。ようこそ諸君。僕が今日の指揮官だ。宜しく頼むよ。心の中だけの指揮官は何故か偉そうだったが、その後僕は心の中だけとはいえこの偉そうな態度をすっかり反省し改めることになる。感動すらしたんだ。迅速な動きに、丁寧かつ合理的な仕事に、そしてあの重い本を考え無しにぎっしりつめてしまった段ボールをなんと二つも抱えてほいほい運び出す彼らの身体能力に。指揮官だなんて偉そうにしてごめんなさい。本当に頭が下がる。引越しのプロに敬礼。

引越しのプロは僕が考えているよりもずっとすごかった。僕は一人暮らしだから来てくれたのは二人。トラックは3tサイズ。一人暮らしとはいえ、そして荷物は最小限にしようといらないものは目をつぶってまで破棄したりしたとはいえ、五年分の荷物が、あっという間に部屋から消えてなくなった。そうだ、この部屋はこんな形でこんな広さだった。がらんどうになった部屋にぽつんと立ってみて、彼らの仕事のおかげだろうか、清々しいとすら思えた。

引越しはまだ終わっちゃいない。運び出したという事は、運び入れるということだ。ただ、運び入れる方がもっと速い。彼らの仕事ぶりを見ていると、自分でつめた荷物であり中身が何かわかっているはずなのにものすごく軽いんじゃないかと思えてしまう。試しにこっそり本の入った段ボールを押してみたけれど、間違いなく重い。僕は少し申し訳なくなってしまった。重いものばかりを詰め込まないで軽くしておけばよかった。

引越しがこんなに簡単かと思える程彼らは見事に仕事をしてくれた。目の当たりにしたプロの段ボールの持ち方ひとつが僕とは違っていた。持ち方にもコツがあるんだな。だからって、自分でやろうとは思わない。きっと真似たところで僕がやったら一発で腰を痛めそうじゃないか。そんな事を考えてる間にすっかりすべての荷物が無事に新居に収まった。感謝の気持ちを込めて、ありがとうと言った。